結局あの後、そのまま弘則と2人で帰ることになり、自転車を押しながら色々なことを話していた。

 そういえば元々弘則は同好会に入るつもりだったみたいだけど、やっぱり銀河先輩が妖怪だって知って怖くなったのかな。

 それを訊いてみると、困ったように「うーん」と目線を落とす。


「制服を着てる時の先輩たちって、妖怪って感じがしなくてそんなに怖くないんだ。だから、それは平気。でも、今は雛ちゃんと佐古先輩のこと見てた方がいいのかなって」

「なっ! そんな事考えてたの!? あんなに楽しみにしてたんだから好きな事ガマンしないで入りなよ」

「……だったらさ、雛ちゃん」


 弘則は、言っていいのか一瞬迷っているような沈黙の後、静かに言った。


「やっぱり一緒に入ろう。それなら佐古先輩が一緒に入っても、雛ちゃんが助けてほしいなって思った時はフォローできるかもしれないし」


 なんていい子なんだろう、弘則って子は……!

 放課後私が三栖斗と2人きりにならないか心配してくれてるんだなぁ。


「うん、じゃあそうする。……入部届、先生のハンコもらったのにグシャグシャにしちゃったから、書き直さないと。あはは」


 弘則も一緒に笑う。

 マンションに着いて駐輪場に自転車を停め、エレベーターに乗り込み5階のボタンを押した。

 5階に到着すると、私たちは別方向に進む。だから、何か言いたそうだった弘則がエレベーターを出たところで立ち止まる。


「雛ちゃん」

「何? どうしたの?」

「雛ちゃんは、強いよ。自分が危ないっていうのに、俺を守ってくれたし……今もそうだ。大変なのは雛ちゃんなのに、俺に頼らず一人で頑張ろうとしてた。昼休みも逃げてきたんじゃなくて、俺を心配して来てくれた。昔から雛ちゃんはそうだった」


 弘則が震える手で、控えめに私の手を握る。


「でも、今回ばかりは絶対遠慮しないで。抱え込まないで、強がらないで俺を頼ってね」

「弘則……」


 安心させるために大げさに頷いたけど、そうかこういう所か……と思い直して照れながら笑ってしまった。


「ありがとう弘則。無理しないよ、大丈夫。じゃあ……お言葉に甘えて。助けてほしい時は相談するから、よろしくね」

「うん」


 するりと手を離した弘則は「じゃあね」とだけ言って自分の部屋に向かって歩いていく。

 それを見送ってから、私も自分の部屋へと帰ったのだった。