……ありえない。


「雛芽、雛芽っ」


 教室のあちこちから視線を感じる。主に、女子。


「ははは、怜音……」

「ちょっとこっち来てっ」


 6限が終わり、ホームルームまでの時間。

 怜音が興奮した様子で私を椅子から立ち上がらせ、背中をぐいぐい押して教室の外へ追い出す。


「三栖斗くんに告白されたってホントなの!?」


 そう言う彼女の目はキラキラ輝いている。


「ちょ、ちょっ……ちょっと待って……私もまだあんまり事態を受け入れてないというか」

「なに言ってんの! て事はマジなんだ!? ひゃーヤバいヤバい~! 凄いじゃん」

「……」


 受け入れたくないのだ。

 耐性がないから。


「うふふふふ雛芽ぇ、顔真っ赤」

「う、うっさいよもう……っ! あんなの顔がいいだけで、言っとくけど私はあいつの事好きとかそういうのないから!」

「えー?」


 ニヤニヤしながら怜音が私の腕を指でつつく。ごめん、本当にそういうんじゃないの。

 昼休みに偶然近くにクラスの女子が座ってて、私たちの話の最後あたりを聞かれたらしく……クラス内でその噂が広まるのは早かった。

 ……バケモノが~とか、結婚が~とか、その辺りは聞かれてなかったみたいで不幸中の幸いというかなんというか。


「でもさでもさ、確かにカッコいいのよね三栖斗くん。好きな人いないならお友達からお付き合い始めちゃえば?」


 ……お友達からどころかいきなり妻にする気満々なんですあの人。しかも前に私がそれを承諾しちゃってるみたいなんです。

 言えない。わけがわからな過ぎて絶対言えない。


 もしも、約束通り将来あいつのつ、つ、妻になるとなったらどうなっちゃうんだろう。私人間やめることになるって言ってなかった?

 今までみたいな生活もできなくて、家族や友達にも会えないよくわからない空間で生きていくことになるんだろうか……。

 ……それは、寂しいな。


「ん? どうした? ホームルーム始めるぞー」


 担任の先生が私たちに声をかけて教室に入っていく。

 怜音が話を途中で切られて残念そうに先生に続いて教室に入ったので、私も彼女の背中を追いかけるように後に続いた。