中庭では既にたくさんの生徒が、それぞれお気に入りの場所を確保してお弁当を広げていた。

 自由に使えるちょっとしたステージのような場所があって、ダンスや歌や楽器の演奏を見てもらいたい生徒がやってきて、毎日何かしら出し物が行われているので人気の場所だ。

 そのステージ周りをぐるりと囲む階段に、私たちは3人並んで腰を下ろす。……本人の希望により、私たち2人の間に“三栖斗”が座った。


「弘則クン、その小さなサンドイッチ1つではお腹がすくんじゃないか? 育ち盛りだろう」

「い、いえ。おかまいなく……」


 そう言う三栖斗の手には大きな大きなお弁当箱。


「さ、佐古先輩? って呼んだ方がいいんですかね?」

「弘則、こいつに先輩なんてつけなくていい」

「いや、でも……なんて言ったらいいのかよくわかんなくて」

「先輩か、いいね。佐古先輩、ぜひそう呼んでくれ」


 ほらぁ……という酸っぱい顔をして弘則が黙ってしまった。


「ねえ、一体クラスのみんなに何をしたの? 記憶の操作でもしてるの?」

「うーん、そうだな……。ほら、心霊スポットに何人かで行って、仲間だと認識していた人間の中に実は一人知らないヤツが混じってて、後で正気に戻って“あいつはなんだったんだ”って怖がるような話がよくあるだろ? 今の私はその“一人多い何者か”のような力が働いている……そういうわけだ」


 どうやって用意したのか、いろんなおかずがぎっしり入った豪華な弁当……その中から煮豆を選んで一粒口に運びながらそう答える。

 何かつまむか? と弁当箱を差し出すが、私も弘則も返事はノーだ。


「……聞きたいことがまだあるの」

「何だ? 答えられることなら聞いてくれ」

「今朝、山の中で迷子の弘則を探している夢を見たんだけど……それは過去に実際起こった出来事で。あの夢はあんたが見せたの?」


 三栖斗は顎に指をあて目を閉じ、口の中の焼き魚を飲み込むとゆっくりと口を開いた。


「雛芽がどこまで覚えているのか夢で確認したのは確かだ。“あの時”の弘則クンの記憶は私がある程度霞ませているけど、雛芽の記憶は弄っていない。だから、本当に覚えていないのかと気になって」

「じゃあ、あの後……何があったのか知ってるのね」

「弘則クンの言う通り、私はあの場に居たからな。教えてもいいけど、多分君は信じない」

「……俺」


 そこまで黙って聞いていた弘則が全然手付かずのサンドイッチをじっと見つめたまま、静かに……けれど強く言った。


「聞きたいです。なんで思い出せないようになってるのかわからないですけど。俺も関係があるなら……何があったのか知りたい」

「……君の記憶に霞をかけたのは、あの時の君がとても怖い思いをしたからだ。その時の恐怖は今も……多少残ってしまっているみたいだけどな。昔は平気だったはずの“お化け”の話が今は苦手なんだろ?」


 弘則は、コクリと頷く。


「だから、封じた記憶はまだそのままにしておく。私が今から話す事は記憶として思い出せないだろうから君も信じられないかもしれない」

「わかりました……それで、いいです」


 ニコリと笑って三栖斗はウンと頷き「雛芽もそれでいいな?」と言うように私の方を見た。……こいつの話が本当にしろ嘘にしろ、話を聞かないと何もわからない。私も黙って頷いた。