祖母の連絡では、到着は土曜日の午後3時頃だという。

 当日の昼過ぎ、キッチンでお茶を用意している私に母は大きなため息を吐いた。


「何も今日遊ばなくたって……」

「あ、あはは……ごめん。だいぶ前に約束してたの忘れててさ」


 今、私の部屋には弘則、三栖斗、そして女子バージョンの“銀河先輩”が来ている。彼女に来てもらったのは、この時間を弘則も居るとはいえ両親に心配させないためだ。

 部屋に戻ると、3人はのんびりとボードゲームを広げていた。銀河先輩曰く「今日になって今更相談する事も何もないでしょうよ」という事らしい。


「まあとにかく最初はおじい様の事からでしょ。三栖斗や高村くんの出番はまだまだ先。それまでずっとガッチガチに緊張してたら本番前に参っちゃうよ?」

「うーん、それもそうですよね」

「今気にしておくべき事があるとすれば――……そうね」


 ぴっ、と銀河先輩は人差し指を立てた。


「ご両親の三栖斗への第一印象くらいかしら。服装は私もチェック入れたから問題ないと思うのよ。ジャケットスタイル似合ってるでしょ?」

「君は私の親か」

「ははは……先輩と三栖斗については“芸能人みたい”って言ってましたけど」


 弘則が「わかる」と言って頷いた。

 そうして他愛ないお喋りをしながらゲームを始める。

 その最中も、私の中には次から次へと不安が浮かぶ。きっと誰が見てもわかるくらい、集中できていなかった。



 3時前、来客を告げるチャイムが鳴って、私の身体が強張る。銀河先輩が「来たね」と表情一つ変えずに、ゲーム盤の駒を動かしながら言った。

 玄関の方から、話し声が聞こえる。祖母が至って普通に「元気そうで何よりだわ」と言うのに対し、父と母の声は何かを言いながら戸惑っているのがわかった。

 それは、祖母が祖父を連れてきたからだろう。父は祖父の顔を覚えてないと言うから、どちら様? といった感じかな。

 私は、一旦挨拶だけをしに皆に断りを入れてから部屋を出る。

 戸惑いながらも2人を居間に通した父と母、そして祖父と祖母の4人と目が合った。


「こんにちは」

「こんにちは雛芽。また後で話しましょうね」

「うん……後で」


 祖母は緊張を隠せない私に穏やかに笑いかけてくれた。祖母の後ろに立つ祖父も、それは同じだった。


「古い写真、全部処分したって言ってたけどね、1枚だけ残ってたのよ」


 居間のソファーに腰を下ろしながら、祖母が鞄から1枚の写真を取り出す。先日見せてもらったけれど、それは祖父と祖母、そして幼い父が写った写真だった。

 そこまでを見届けてから、私は自室へと戻っていった。