「雛ちゃん、本当に大丈夫?」

「私は平気平気! 弘則こそ無理しないでよ?」


 下駄箱で上履きに履き替えて、弘則は1年だから2階、私は3階へ上がる。


「俺はいいんだよ。それより、あの人今度は会いに来るって言ってたから、行くとしたら雛ちゃんの所だと思う」

「だから平気だって。霧が出てきたらソッコー逃げるよ」


 笑って弘則の肩をポンポンと叩き、勢いよく3階への階段を駆け上がった。

 廊下にクラスメイトの怜音(れいね)の姿を見つけて、後ろから勢いをつけて覆いかぶさる。


「おっはよう怜音!」

「うひゃあ!? 雛芽!? もう~おはよ」


 雛芽は今日も元気だねぇ。と笑われて、2人で一緒に教室へ向かう。

 カラカラと扉をスライドさせると、教室の真ん中あたりの列、一番後ろに私の席がーー……。


「は?」


 思わず真顔になる。

 私の席の1列窓側、少し手前の席に……アイツが制服姿で座っていた。

 金色の目とバチッと視線が合う。


 咄嗟に教室の扉を閉めた。


「え? なんで閉めたの?」


 後ろから怜音がツッコむ声が裏返る。


「ごめん私帰る」

「へっ!?」


 そう宣言して一歩後退りした時には、目の前の扉は再び開かれていた。

 優しそうに微笑み、当然のように挨拶をする。


「おはよう2人とも。早く入らないと先生が来るよ」

「あっ、おはよう三栖斗(みすと)くん。ええっと、雛芽? 体調悪いなら先生に言っておこうか?」


 少し長い前髪から金色の目がこちらをまっすぐ見つめる。


「あんた……何したの……」

「何って? なんの話だろう」


 目の前の男は、うさん臭い笑みでとぼける。

 おろおろと怜音が私たちの顔を交互に見た。


「……私が今日帰っても、明日もあんたは居るわけよね」

「そういうこと」


 私は大きく「はあ」とため息を吐いて、覚悟を決めて教室に入った。