この春うちの学校に入学した、同じマンションに住む幼馴染の弘則(ひろのり)。帰宅部の私は彼に誘われて、部活見学に来ていた。

 狭い部室の中には、棚にびっしりとボードゲームの箱が並んでいる。

 パイプ椅子に座ってそれらを眺めていると「はい、じゃあ始めましょうか」と、この同好会の会長らしき男の人が拍手をしながら言った。


 隣に座っていた弘則が、嬉しそうに笑いながらパチパチと控えめな拍手をしているのを横目に見ながら、私も手を叩く。


「皆さん、アナログゲーム同好会の見学にようこそ! 会長の継野(つぐの)です。今日はよろしく!」


 4台くっつけた机を、会員の3人と見学の生徒3人、計6人で囲む。

 新入生の見学時期だからか、昨日も何人か見学に来ていたらしい。毎日違うゲームをやるので、興味があったら何度でも来て下さい、と案内される。

 テーブルの上にはイラストの描かれたカードが並んでいて、今日はこれで遊ぶみたい。


 カードを集め、慣れた手つきで混ぜながら、カッコよく髪を流したショートヘアの女子生徒が自己紹介をする。


「私は3年の銀河 梓。よろしくね」

「よろしくお願いします、2年の橘 雛芽(ひなめ)っていいます」

「1年、高村 弘則です。よろしくお願いします」


 銀河先輩はにっこりと微笑み、カードを配っていく。


「ここ、私が入部した頃はオカルト研究会だったんだけどね、お茶飲んで喋ってばかりで。会長が持ち込んでいたゲームで遊び始めて、いつのまにかアナログゲーム同好会になってたの」


 それを聞いて、先輩たちが「ユルいよなぁホント」と笑っている。

 見学に来ていた、知らない女の子が興味津々に「オカルト研究会ですか」と食いついた。


「そう。この部活棟、もとは旧校舎って言われててしばらく使われてなかったんだけど、きれいにして去年から部活棟になったの。まあそのおかげで部室に余裕ができて、こうして同好会でも専用の部屋を借りられてるわけ」

「旧校舎時代はいろんな噂があってな。勝手に七不思議作ったりして」


 七不思議? それって花子さんとか、動く人体模型とかでしたっけ。


「そうそう。でもここのはちょっと変わってて」

「霧男(きりおとこ)とか」

「霧男、ですか?」


 ゲームの準備を進める手を止め、銀河先輩がフフッと吹き出すように笑った。


「どこにでもありそうなやつよ。いきなり霧と共に現れて、女子生徒をさらって消えてしまう男なんだって」


 口に手をあてて、おかしそうに笑う。けれどすぐに小さく咳払いをして


「さ、ゲームしましょ」


と、席に着いた。