それから二週間、授業にピアノの練習に、キャバクラのバイトに、休む暇なく過ごしていた。

シフトは週2日しか入れていないが、夜遅くまで働いた次の日は講義中についウトウトしてしまう。


「岬さん、疲れてるみたいだね。」

音楽史の講義で隣に座っていた学生から指摘されてしまう。
恥ずかしいことこの上ない。

確かピアノ科の同期の…

「松村だよ。あんまり話したことなかったよね、」

思い出した、コンクール上位常連のピアノ科のトップ松村秋吾くん

「見苦しい所見せちゃった。」

あはは、と笑ってごまかす。


お堅い音楽史の講義がやっと終わり、もう一度松村君に話しかけられた。

「岬さん、今週末空いてる?」

「えーと、日曜なら空いてるけど…?」

練習のお誘いか何かだろうか?
普段から仲がいいというわけでもなく、こうやって話しかけられるのは珍しい

彼自身、普段は一人で黙々と練習に励んでいるタイプなので、特定の誰かとだべっている姿を私は未だ見たことがない。

流石に友達くらいはいるんだろうけど。

「よかった。あのさ、お願いがあるんだけど…」

そういって手渡されたのは1枚の便箋。なにかの招待状のようだ。

「”神谷司生誕パーティー”?
え、あの神谷さん?」

日本を代表するピアニストの一人だ。