「……。」
なつきは身構えた。

再び、男の蹴りがなつきに入った。

なつきはベッドの上に倒れ込んだ。

「へへへ。」
男は不気味な笑みを浮かべながら、なつきの上に馬乗りになった。

「……。」
なつきは、蹴られた痛みが酷く力が入らない…。

男はなつきのシャツに手をかけた。

「……。」
なつきは、痛みと恐怖から声が出なかった…。


━━その時!!

《バチッ!》
と、部屋の外で音がした!

「ん?」
男は、音のした方を振り返った。

なつきも、身をよじりながら、音のした方を見た。

━━悌二郎が、結界にぶつかっていた。

通り抜けようとして、ぶつかった訳ではなく、自ら体当たりしていた。

「て、悌二郎…君…。」
なつきは呟くように言った。

「うっ…。」
悌二郎は、痛みに耐えながら、結界に激突していた。

他の幽霊達は、それを眺めていた。

「虎之助殿…。」
と悌二郎は虎之助を見て、
「さ、佐川様を連れてきて貰えぬか?」
と言った。

「承知致した。」
と言って、虎之助は消えた。


「うーん、どうしよう…。」
まなみは呟くように言った。

━━ここは、まなみの勤務先の最寄り駅…。

電車が人身事故で、止まってしまっていた。

タクシーや、バスも長蛇の列で、かなり時間が掛かりそうだ…。

《佐川様!》
と、どこからか声がした気がした。

「?」
まなみは、辺りを見回した。

━━知り合いはいなさそうだ。

《私です、虎之助です。》
と、声がした。

いつの間にか、目の前に虎之助が立っていた。

「うわっ!」
まなみは、思わず声を上げてしまった。

周りの人達が、一斉にまなみを見た。
どうやら他の人には、虎之助の姿は見えていないようだ。

「と、虎ちゃん…!?」
まなみは辺りをキョロキョロしながら、
「どうしたの?」
小声で言った。

《松平様が危のうございます!》
と、虎之助が言った。

「え?」
まなみは驚きを隠せず、
「なつきが?」
と訊いた。

《はい、それで佐川様をお迎えに参りました。》
と、虎之助が答えた。

「教えてくれてありがとう…。」
まなみは少し間をおいて、
「でも、すぐに帰れそうもないの…。」
と、肩を落とした。

《私にお任せ下さい。》
と、虎之助は言った。

「え?」
まなみは意味が分からない様子…。

《佐川様、失礼致します。》
と言って、虎之助はまなみの腕を掴んだ。

《は!》
っと虎之助は声を出すと、まなみと一緒に消えてしまった。

「わぁっ!」
周りの人達は、急にまなみが消えたのでパニック状態だ。


━━なつき達の住むアパート。

男はなつきの上に馬乗りになったまま、悌二郎の方を見ていた。

「何だ、貴様は“霊力”が弱くて結界を破れないらしいな。」
と、笑みを浮かべた。

「れ、霊力…?」
なつきは呟くように言った。

どうやらこの男は、何かの霊に取り憑かれているようだ。

それなら先程の結界にぶつかった音の説明もつく…。

「く、くそっ…。」
悌二郎は悔しそうに言った…。


━━その時!

虎之助の瞬間移動で、まなみが部屋の中にに着いた!

「!?」
男は、急にまなみが現れたので驚いた。

「ま、まなみ…。」
なつきが、か細い声で言った。

「なつき!」
まなみが声を上げた。

まなみは助けたかったが、相手のただならぬ妖気みたいなものに、足がすくんでいた。

「ど、どうすればいいの…。」
まなみは呟くように言った。

「さ、佐川様…。」
悌二郎がよろよろと立ち上がった。

「悌二郎君…。」
まなみは悌二郎を見た。

「さ、佐川様のお身体を…。」
悌二郎はまなみを見て、
「お貸しいただけますか?」
と訊いた。

「私の身体?」
と、まなみは悌二郎を見た。

「はい、佐川様のお身体をお借りして、結界を突破しとうございます。」
と悌二郎は言った。

「そ、そんな事出来るの?」
とまなみは目を丸くして、
「でも、それでなつきが助かるなら…。」
と頷いた。

「かたじけない。」
悌二郎はまなみを見て、
「では失礼致します。」
と言って、まなみの肩に手を置いた。

「すまぬが皆様のお力もお貸し下さらぬか?」
と、悌二郎は訊いた。

「承知致した。」
「承知致した。」
虎之助達全員、承知した。

そして幽霊達全員、まなみの肩など身体の一部に触れた。

「……。」
まなみは正直、少し怖かった。

「は!」
「は!」
悌二郎達は言葉を発し始めた。

まなみの周りが金色に光り出した。

その金色の光は、まなみや悌二郎達を包んで見えなくした。

《ドーン!》
けたたましい音が鳴り響いた!