なつきとまなみは、悌二郎達の元へ駆け寄った。

「悌二郎君…。」
なつきは心配そうに、
「大丈夫?」
と訊いた。

「ま、松平様…。」
悌二郎は二人を見て、
「お怪我はございませんか?」
と弱々しい声で訊いた。

「大丈夫だよ、ありがとう。」
と、なつきは答えた。

「みんなもありがとうね。」
まなみは、幽霊達を見た。

「今日は、私が飯盛山で自刃してから150年なのです…。」
と、悌二郎は言った。

「え?」
なつきは悌二郎を見た。

「長州藩に、150年の積年の恨みを晴らし、松平様をお守りする事が出来ました。」
と悌二郎は言った。

「私、会津藩とは無関係よ…。」
と、なつきは言った。

「存じております。」
悌二郎は頷くと、
「しかし、“松平様”というお名前の方をお守り出来た事には変わりませぬ…。」
と答えた。

「松平様…、佐川様…。」
悌二郎は二人を見て、
「お二人にお会い出来て、楽しい日々を過ごせました…。」
と言った。

「私も楽しかったよ…。」
となつきは言った。

「私もだよ…。」
まなみも答えた。

悌二郎はよろよろと立ち上がった。

他の幽霊達も立ち上がった。

そして、幽霊達は一斉に正座をした。

「!?」
「!?」
なつきとまなみは、顔を見合わせた。

そして、幽霊達をみた。

「松平様…、佐川様…。」
悌二郎は背筋を正すと、
「短い間でしたが、お二人にお仕え出来て幸せでした。」
と頭を下げた。

「幸せでした。」
と、他の幽霊達も頭を下げた。

「こちらこそ…。」
なつきは正座をして、
「幸せでした。」
と頭を下げた。

「私も、幸せでした。」
まなみも正座して、頭を下げた。


━━その時、悌二郎達の身体が光り始めた。

そして、幽霊達は光に包まれた。

その光が、消えると同時に、悌二郎達も消えてしまった。

「え?」
「え?」
二人は、驚きを隠せなかった。

━━部屋の中の空気が変わった。

すごく軽くなった感じがした。

「なつき、これって…。」
まなみは、なつきを見た。

「う、うん…。」
なつきは頷いた。

空気が軽い━━それは、悌二郎達が消滅した事を意味していた。

「なんか…。」
まなみは寂しそうに、
「いなくなると…寂しいね…。」
と言った。

「そうだね…。」
なつきは遠くを見つめて、
「なんか、楽しかったよね…。」
と呟いた。

それから二人は夜通し、悌二郎達との思い出を語った…。

━━いつの間にか、夜が明けていた。

この夜明けは、二人の新しい生活の幕開けでもあった…。




《終》