ハーフタイムの明徳の更衣室は湿っぽく静まり返り、誰も口を開きはしなかったが、

「うっ…………」とタオルを顔に押しあてながら泣き声が自然ともれてしまう部員達に監督はもう何も声をかけることは出来なかった。

誰一人諦めるものなどいない。
誰一人最後まで諦めないでボールを追うけど力が及ばない。

敵わないーーと思い知らされて跳ね返ってくる。


あと一歩。あと一歩全国なのに。
夢見た全国は目と鼻の先なのに、容赦ない現実を思い知らされる。


最後までこの気力は持つのだろうか……プライドは明日から持てるのだろうか……と皆、頭の中で過る不安に言葉も口には出せなかった。


「未茉……」

ハーフタイムも一人更衣室には行かずに明徳ベンチに座って目を閉じたままの未茉の元に静香はやってきた。


「未茉、もう負けや。」

その言葉にゆっくりうっすら目を開けると俯く未茉の視界には静香のバッシュの足元が写った。

「明徳の負けや。でもこんな弱小チームをここまで導いたあんたはよう頑張ったと……思うで。」

少し言葉をつまらせながらそれしか言葉が出ないと思った静香は未茉の頭部を見下ろしながら言い去っていった。



「……あれ前原……」

自分のことでいっぱいだった鈴木は前原が更衣室に来ていなかったことに気づいたのは、コートで後半の出場に向けて一人シュート練習をしてる姿を見たからだった。

「しかも湊とキタロー……?!なにやって」

前原の隣にはなぜだか翔真とiPadを持つキタローがいて話ながらボールのパスのやり取りをしていた。


「あれだけの屈辱を味わいながらも最後まで諦めずに戦う姿は素晴らしいわね。」
そんな様子を見て大成の工藤監督は皮肉っぽくも笑うもコートを見やった。

「ま、見習いたくないですけどね。」
「ふふふっあははは」
田島の言葉に大成の選手達が笑いに包まれ、やがて試合開始のブザーが鳴り始め、

「田島。もう白石は意気喪失してるんだ。相手にする必要ない。3Q終わったら交代だ。全国に向けて休め。」

「そうですね。」
ニヤッとした笑みを浮かべながらコートへワンマークする未茉の元へ戻っていき、


「退屈しのぎにもならなかったわよ。あんたは。」

未茉の背後からそう言い放った。矢野と交代した前原はボールを手にしてドリブルしながら周りを見て、

ーーパシッ!未茉にパスしたボールを田島は奪うと、

「!!?」

その妙だった未茉のボールの持ち方に田島は初めて違和感を持った。