「前原、お前ならできる。自信を持て。」

天才をうまく思うようにコントロールできない焦りに不安が苛立ちに変わったんだろうと野村は思い、その言葉をかけた。

(白石の動きを見て、もっといいパスだせたら…と自分の選択に苛立ってしまうこともあるだろう…。それを白石に見抜かれるのが怖いのだろう。)
そんな彼女の弱さと汲み取る不安を強気な前原の横顔からは見抜いていた。



「私に文句があるなら自分一人でボール運びなよ。天才なんだから。」

まるで八つ当たりのような言葉だったが、中学時代に一度静香に全く同じことを言われたことを思い出した。

‘誰かて未茉みたいに頭キレる思うたら大間違いやで!?ほな未茉一人でやったらええやん!!’

「あぁ?言い逃げすんなっ!!バスケっーのは、五人でやるんだろうが!!」

未茉は震える拳を握りキッと背を向ける前原を睨み付けながら言った。

「!」
「五人でたった一点を取るもんなんだよ!!」


明徳女子バスケット部は、去年の夏のインターハイ予選後、鈴木と三年を中心に息の合った守りの固いチームで、抜擢されたガードの前原の巧みなアシスト力が戦力となり、冬の大会では初の東京ベスト16まで勝ち上がった。


そこへ、無限の得点力を秘めた未茉が加われば、間違いなく絶対的東京女子の王者、去年全国ベスト8の大成を倒せる可能性を秘めたーー白石中心のチームへの改造を野村は考えていたが…、


内部分裂は深刻のまま……、
いよいよ予選ブロック一回戦が明後日に迫った。