「未茉ちゃんは自分の才能に溺れたりなんかしませんよ。現に誰よりも人一倍努力して練習して頑張ってますから。」

ポケットに手を入れ壁に寄りかかり彼女の姿を思い出すような横顔で話しだす。

「バスケは勝つ為だけじゃなくもっと上手くなる為に、楽しむ為にあるんじゃないんですかね。彼女にとって。」

‘それじゃ’と頭を軽く下げて体育館に向かおうとした翔真を今度は匠が呼び止めた。

翔真と話していてある過去の会話がよみがえったからだ。



‘匠、お前にとってバスケはなんだ?’

昔未茉の父さんに聞かれたことを思い出した。
夕方の公園で久々にバスケを見てもらいながら進路の話をしてた時だった。

‘全国優勝する為の王子なのか?’

‘違っ……強くなるためですよ!だってこの辺の高校じゃーー’
‘強い高校に行かなきゃ強くなれないのか?’
‘……’

‘それは楽しいことなのか?’


「……っ。」
一瞬思い出して唇を噛み締めていたが深呼吸して落ち着きを取り戻して口にした。

「あの子はまだ子供だ。欲のない真っ直ぐな。」

「……」

「でも多分、今回の予選で未茉は分かるはずだ。自分の選んだ現実の過ちに。その時の為に雅代さんにも清二さんにも王子学院に編入の相談を昨日もしたんだ。」

「……」
「夏が終わる頃には未茉はここにいないよ。」


「それは想像つきませんね。」

少し冷めた視線を落とした翔真だったが、強気に微笑んで去ってた。