「本当は吹奏楽部に入りたかったの。中学もずっとピアノやってたしね。だから明日退部する。」

「…なんかもったいない気もするけど…ピアノ弾いてる時の椎名さんはいつもよりも本当に綺麗だったからいいかもな。」

「……」

「あたしはバスケが好き!好きなことにいつも一生懸命になれる自分がいいよ!!互いに頑張ろうぜ!!」

もう夜なのに太陽のように明るくて眩しいくらいの元気いっぱいの笑顔で言った。

こういう笑顔をできるようになれればきっと好きな人から無条件で愛されるような気がしてならなかった椎名は、硬い表情で頷いた。


「じゃあね。白石さん。」
「おう、あ、なぁ!」
「?」

「計算とか繕ったりしないそういう素直な椎名さんの方があたしは好きだぜ?」

「……じゃあね。」

「おう!またな!早く学校来いよ~」
後ろから投げ掛けてくるその言葉に少しだけ暖かい気持ちで椎名は公園を後にしていった。

(なんだ…いい奴じゃん!)
未茉は晴れ晴れしたため息をつくと、公園がライトアップされてることをいいことに、いつもの自主練メニューをこなすことにした。

勢いよく放ったシュートがこぼれ転がってくボールを追いかけようと振り返った時、

「あっ……」

いつからいたのか、木の影から出てきた男がスッと手に取り、未茉にボールを差し出した。

「あれ……ん?」

その男の姿に心当たりがあった。

大成高校のジャージを着ていたので確信をした。


「お前、この間の試合に出てた一年だろ?」

バスケをやるには、少し小さい男の子だが、早いドリブルとBIG3も手こずっていたディフェンスが印象的だった彼のプレーは覚えていた。

「嬉しいです。僕、白石さんに憧れて本格的にバスケ始めたので。」

「えっ!!?あたしのこと知ってるの?!」

「はい、王子中出身の白石未茉さんですよね?僕は、大成高校の一年の早乙女 蓮です。」

とても育ちがいいのか礼儀正しく、いかにもスポーツマンらしい丸坊主に刈り上げた頭を下げてお辞儀をして爽やかに挨拶をしてくれた。