「なんで白石未茉おらへんの?」

その女は明徳の選手とベンチを見渡しガムを噛みながら言った。

「なんだぁ…あの行儀悪そうな女は…」
明徳の女子も野村監督も思わず口に出してしまったのは、そのスポーツマンらしからぬ風貌もある。

182センチの長身なだけでも圧倒されるであろうに上から人を見下すようなつり目に、編み込まれた茶髪に大阪弁の彼女にはだいぶ派手なインパクトがあった。


「なんや、明徳ごときでスタメン選ばれんかった言うんやないやろな?」


「…確かに凄い存在感ですね。」
ギャラリーから見ている翔真も頷いた。
「でもどこかで見たような…」
「中身に凄く問題ありなんだけどな…」
マイクは頭を抱えながら歯切れ悪そうだ。


「何してるんだろ」
11時25分、試合開始五分前になると翔真は何度も時計とコートを見ながら呟く。
「スタメンじゃないんじゃないか?ほら選手五人いるぞ。」

「白石さん…どうしちゃったのかな…」
心配している翔真も見て、椎名も一緒に心配そうな面持ちを浮かべた。

「え、控え室とかで椎名さん会ってないの?」
思わず聞き返しながら翔真は立ち上がった。
「え、あ、うん!だってまさかここで見れると思ったから」

「マイクさん、ちょっと探しに行ってきますね。」
「おう。」
「あっ……!じゃ私もっ!!」
椎名も後を追うように行ってしまった。

(……翔真狙いだなあの女は。香水ぷんぷん付けやがって。)
マイクはめんどくさそうなため息ついてまたコートに目をやる。

(白石の実力は分からないが、大成女子は強いぜ。キャプテンのアイツがいるんだ。都内で負けるはずがない。)