君と初めて出逢いは、小4の夏だった。


「お前、愛知で一番バスケ上手いんだってな?」

全国ミニバス大会の決勝の舞台でシュートを一人でバカスカと放り込む規格外の上手さを見せつけ会場内を湧かせ、“天才”と呼ばれた人が自分に向けて言った。

夕暮れ沈む会場の外にあるバスケットゴールの下に伸びる影が振り返り、尋ねられた。
「いや……」
僕は言葉に詰まったーーというより、言葉に困った。

明らかに上手かったのは君の方だからだ。

……ダンダン……
手のひらに吸い付くようなボールを地面に叩きつけるドリブルに見とれてしまった。

「どっちが上手いか勝負しよーぜ。」

見るからにヤンチャそうな君のニッと笑う勝ち気な顔には絆創膏が二つ貼られている。
「なんだよ。やんねーの?」
「あ、いや……」
「何っ!?聞こえねーよっ!もっと大きな声で喋れねーのかっ!?」
ボールを持ったまま、初対面とは思えない口調と距離感で君は僕に詰め寄ってくる。
「……喋れる…けど」

「よし!じゃやんぞ!」

ポイッと君は持っていたバスケットボールを投げきて、
「お前からでいーよ。」
「……」
何故、命令されなければならないのか・・・
そしてやると言った覚えはないのだが・・・

ボールを手にしながら数秒間考えていると、

「おいっ!早くしろよっ!」
強引でせっかちな君に催促され、考える暇もなく体が動くと、君は意図も簡単にこの手から片手でボールを奪って見せた。
「ーーー!」

振り返るとゴールに手を伸ばす影が伸びてすでにリングにボールを押し込まれていた。


「なんだ。たいしたことねーじゃん。」

一対一の10本勝負はあっけない程簡単に勝負がついてしまった。
ちっとも息の切れない君とは対照的に自分の頭から止めどなく滴り落ちる汗と息切れと、深く傷つけられたプライドに愕然として膝をついていた。

「言っとくけどそんなんじゃ明日の決勝は負けるよ。」

‘バイバイ’も言わずにふっと鼻で笑い勝った君は立ち去ってしまった。

言葉が出なかった。
バスケで手も足も出なかった初めての屈辱。

「……」

初めて負けて悔しいと思った。
初めてバスケで涙を流した。

右手で拭った涙と汗のほろ苦さをまだ覚えている。

これは、
ボロ負けをしたあの日から約六年後のストーリー。