初恋エモ


まだ別れた理由が理解できない。

しかし、翠さんの目には涙がたまっていた。


「映希は優しいし、かっこいいし、今までの彼氏の中でもダントツで好きだった。お互い今までに嫌な事がたくさんあって、その傷を埋め合ってる感じして幸せだった」


「…………」


「でも映希には、バンドがあるから。もう大丈夫なんだよ」


揺らいだ声が、痛かった。

クノさんを音楽の世界に引きずりこんだのは、私だ。


「うすうす気づいてたけど、もう、あたしは映希の一番になれなくなったんだよ。もう苦しくて限界で、だから別れようって言った」


今目の前にいる翠さんは、いつもの翠さんとは別人みたい。

ある一点を見つめたまま、冷静に言葉を紡いでいる。


「クノさんは何て言ってたんですか?」

「別れたくないって」

「やっぱり。クノさんは翠さん大切に想ってますよ。音楽とは全く別の次元で」

「でも新しい彼氏できたって伝えたらもういいわ、って言われた」

「え?」


新しい彼氏?

クノさんを突き放すために嘘をついたのかな?


そう思ったが。


「地元の先輩に一緒に暮らそうって言われた。オッケーしようかなって」


翠さんは急に頬を赤らめ幸せそうな表情になる。


「えええっ!?」


切り替え早くないですか?

本当にそれでいいんですか?


言葉にできず、ぱくぱくと口から空気が吐き出されていく。


「あたしは映希と違って弱いから、こんなもんだよ。あたしだけを想ってくれる人が近くにいないと生きていけない」


今のクノさんでは翠さんの寂しさは埋められないらしい。

仕方のないような、でも別れてほしくないような。


翠さんの気持ちを聞いて、私は複雑な気持ちでいた。


だけど、


「美透ちゃん、これからも仲良くしようね!」


翠さんはいつもの明るい笑顔で、そう言ってくれたため、少し安心した。