「だって私結構ミスしましたし、怒ってるかなぁって」

「怒ってねーよ! 元々目つき悪い……って言わせんなコラ」


クノさんに胸ぐらをつかまれそうな状態へ。

ひー機嫌悪くなってきた! 怖い怖い!


その時、扉が開く音がした。


「あ?」「え?」


お互い振り返り、扉へ視線を向ける。


「…………」


そこには、唖然とした表情の翠さんがいた。

今、私とクノさんは肩がぶつかるほどの近い距離にいる。


翠さんは私たちと目が合うと同時に姿を消した。

すぐに慌ただしく階段を下る音が聞こえた。


「待って!」


反射的に立ち上がり私も部屋を飛び出した。


絶対、翠さんに誤解された。


「はぁ、はぁっ」


元陸上部の私は走りには自信がある。

全力で走ると翠さんの姿が近づき、川沿いの道で追いついた。


「翠さん!」


腕を捕まえて、彼女を止めた。


「クノさんはバンド仲間で、何もやましいことはしてないです! 今もこの前のライブ映像見てただけです!」

「分かってる。美透ちゃんのことも信じてる。でも……!」


激しく息切れしている翠さんは、その場にしゃがみこんだ。


「映希と一緒に音楽やってる美透ちゃんはずるい! でも、そう思う自分も嫌い!」


翠さんの声が揺らいでいく。


「え……」

「映希が、ある時期から音楽ばっかりになって。あたしよりもそっちが大切になっちゃったんだよ。もうつらいよぉ、うぅ、うわ~ん」


しゃがんだまま号泣しだす翠さん。立ち尽くすことしかできない私。


まわりを見渡したものの、誰もいない。


私もしゃがんで翠さんの背中を撫でる。


どうしてクノさんは追いかけてこないの?

と少しイライラしながら。