ステージに出ると、まばゆい光とたくさんの拍手に包まれた。
ベースを肩から下げ、軽く弦を鳴らす。低音がフロアに響く。
クノさん、葉山さんも準備を終え、音を止めた。
無音の時間を作り、ライブハウス全体に緊張感を漂わせてから。
葉山さんの手がドラムへ振り下ろされると同時に、私とクノさんは思いっきり弦を鳴らす。
ベース、ギター、ドラムの爆音が合わさり、お客さんから歓声が上がった。
「透明ガールってバンドです。よろしくお願いします」
早口でクノさんがマイク越しに伝え、ライブが始まった。
ギターをかき鳴らし歌っているクノさんの横で、葉山さんのドラムに合わせ、自分のベースを鳴らす。
余裕なんてないけれど、全身で音を浴び、全身で音を奏でる。
クノさーん! という黄色い声の隙間から聞こえたのは、
「ベース、女子? あれ誰?」という声。
ぼさぼさの髪の毛が顔を隠してくれているため、正体が分からないらしい。
「せーの」「美透ちゃーん!」
そんな中、中学時代の友達が声援をくれた。
嬉しくなり口元に笑みがこぼれる。次の曲を奏でようとクノさん、葉山さんと目を合わせる。
「え? うそ!」「あれ、美透ちゃん?」
クノさんの近くを陣取っている穂波さんやクラスの女子の驚く顔が見えた。
再び爆音を鳴らし、彼女たちの声をかき消した。
魂で叫んでいるようなクノさんの歌、そして荒々しいギター。
やっぱり彼がいるべき場所はここだ。そう確信した。
ライブの最後は、オリジナル曲の『さよならストライク』。
野球をやっていた頃のクノさんの苦しみが表現された曲。
「嫌われることには慣れているのに」
あの曲のラストに、もう一フレーズ歌詞が増えた。
「また求めてしまう しょうがないな」
ニコニコとドラムをたたく葉山さんと何度も目を合わせる。
時々、クノさんとも合わせる。にらまられたかと思い、何回かそらしちゃったけど。
でも、得意げな顔で口角を上げる彼を見て、思った。
私の居場所もきっとここだ。
ここでずっと音楽を奏でていきたい。