「それより、葉山さんおせーな」


スタジオに入って15分経った。

ドラムセットは無人のため、クノさんと二人でそれぞれ音を出して練習中。


次第にクノさんの機嫌が悪くなっていく。

早く来てください、葉山さん……


「ごめん、バイト伸びちゃって。すぐ準備するわ」


五分後、汗だくだくの葉山さんが現れた。走ってきたみたい。


「昨日送った曲、どーですか?」


クノさんからの問いに、

「ごめん、まだあんまり聴きこめてなくて。叩きながら考える」

と、葉山さんは答えた。


むっとクノさんの表情が鋭くなったのを感じた。


案の定、三人で合わせると、


「ベース、音全然聞こえねーよ。あと葉山さん、サビにもっとシンバル入れてもらっていいすか?」

「あのさぁ、ベースのっぺりしすぎ。聞いてて分かんねーの?」

「なんかちげーんだよ。もっと疾走感出したいっつーか。あー!」


私のすみません、という声と、葉山さんのちぃーっす、という声が交互に発せられた。


「はぁ~」


休憩中、クノさんは外の空気吸ってくると言ってどこかに行ってしまった。


「美透ちゃん、凹みすぎだって。あはは~」


タバコを吸う葉山さんは意外とけろっとしていた。

私を慰めてもくれる。


「私、全然甘いです。クノさんはずっと頭の中で音楽のことばかり考えてるんだと思います。私なんてまだまだ」

「でもベース始めて半年たってないんでしょ? あれだけ弾けてすごいと思うけど、俺は」

「いや~もっと練習しなきゃダメです」


翠さんといるのは楽しいし、正直に言うと、ミハラさんのことは気になっている。

だけど、バイトも家のことも色々あって、私には遊んでいる時間はないんだ。

そのことを自覚しなきゃ。


本当はこうやって凹んでいる暇もないんだ。


「よし、頑張ります!」


気を切り替えて、スタジオに戻ろうとした。

その時、クノさんが勢いよく戻ってきた。


「美透、ベースがらっと替えるぞ。あんなんじゃ曲が映えねーよ」

「はい……」


必死に考えたのに、新曲のベースやり直し決定。


……上手くいかないなぁ。