「まだ話、終わってないんだけど!」
「終わった終わった」
「まさか浮気したのってその子? 全然可愛くないじゃん。あんた趣味変わった?」
あれ。私、ウェーブさんに軽くディスられてる?
地味な顔に地味な三つ編み、地味な三つ折りソックス。
そりゃあ、イケメンな彼には合わないでしょうけれど。
微妙な気持ちになっていると、彼はズバッと言った。
「うるせーな。お前みたいに他の女子悪くいうヤツと違って、めちゃくちゃ可愛いわ」
「……っ!」
この場を収めるための嘘だと思う。
でも、肩に手を回されたことも相まってドキッとした。
「もういいっ!」
その女子はもう相手にされないと悟ったのか、ぷいっと顔を背け走り去った。涙を浮かべながら。
どうしよう。
私がここにいたせいで、可愛そうな展開になってしまった。
申し訳ない気持ちになる。
――いや、それよりも!
「ありがと、助かったわ。じゃ」
彼は私の肩を軽く叩き、階段を下っていく。
入学早々の対面。しかも二人きり。
さっきの状況以上に緊張感が体に走った。
「あの……待ってください!」
「何?」
「えっと……その」
思うことはたくさんあるのに、言葉が出てこない。
だって、この男子――クノさんは、私の憧れの存在だから。
「………」
今、私は彼にめんどくさそうな目で見つめられている。
早く何か喋らなきゃ! そう慌てた私は結局、
「あの! さっきの方に誤解されましたよね。どうしたらいいんですか?」
と口にしていた。
「あーそのうち無かったことにしとくから、大丈夫っしょ」
彼はそう言い放ち、階段を下っていった。

