「そういえばクノが探してたよ。美透ちゃん何の競技?」
「ソフトボールです。この後決勝で……」
そう言いかけた時、ミハラくーん! 早く早く! という女子の声が廊下に響いた。
「ごめん、行くね。試合頑張ってね!」
なぜかミハラさんはもう一つスポーツドリンクを買っていて。
再び爽やかな笑顔を向けたかと思えば、二つのうち一つを空中に投げて、彼は去っていった。
慌ててキャッチした。
「いやいやいや! 悪いですよ!」
大声を出したが、すでに彼はクラスメイトらしき女子たちのもとにいた。
どうしよう。おごってもらっちゃった。
もらったペットボトルを握りしめ、立ち尽くすことしかできない。
後でお礼をしないと、と考えていたその時。
「美透ちゃん……」
嫌な声がして、はっと振り返った。
私をにらみつける穂波さんの姿が視界に入った。
「あ、今のはその、えっと……」
「…………」
穂波さんは無言のまま。
ミハラさんと私が仲良くしていたのが気にくわないのかも。
もちろん飲み物をおごってもらったことも。
どうしたら機嫌を直してもらえるか、必死で考えた結果、
「これ、よかったらどうぞ!」
私はさっきミハラさんからもらったペットボトルを差し出した。
「バカにしてんの?」
パン! と手を払われた。
「キャッ」
「本当あんた見てるとムカつく!」
そう言い捨て、穂波さんは去っていった。
落ちたペットボトルが床で転がっている。足元から離れていく。
みんなに合わせて笑って、気を遣っているはずなのに。
私はいるだけでまわりを不快にさせる。そんな存在なのだろうか。
ぽろり、と涙が頬に伝った。
一人になりたい。音楽が聴きたい。
なのに。
「美透ちゃんいた! 決勝始まるよ!」
「あ、すぐ行く! 先行ってて!」
ペットボトルを拾い、急いでタオルで涙をぬぐう。
ネガティブな気持ちを必死に飲みこむ。
この試合が終わるまでは、ちゃんとやろう。笑おう。
穂波さんと顔を合わせるのは気まずいけれど。