初恋エモ



薄い雲の隙間から、ぽつりぽつり星が顔をのぞかせていた。

裏の小道を進めば、すぐ川沿いに出ることができる。


ポケットに手を入れ先を進むクノさん。後ろを追いかける私。

歩くの遅いと言われ、小走りで彼の横に並んだ。


「こうやって夜だらだら歩いてると、いろんなことが頭によぎる」


ぼそりとクノさんは言葉を発した。


流れる川は薄く街灯を反射しているものの、ほとんどが真っ黒。

街と街の間に闇がただよっているみたいだ。


「そうなんですか」

「だいたい嫌なことだけど」


彼はそう言って、口のはじっこだけで笑った。

どう答えたらいいか分からなくて、視線を足元へ移した。


少し進むと、河川敷に広がる野球場が見えた。

普段は少年たちがボールを投げたり、打ったり。

そんな景色を見ているけれど、誰もいない今は場所だけが取り残されているようで、寂しげな雰囲気が漂っていた。


「ん」


クノさんは目で合図をしてから、土手下へ続く階段をくだった。

私も彼に続いた。


「そういえば、この前ミハラさんから聞きました。クノさん野球やってたって」

「……あいつ何か言ってた?」

「そこらの先輩より全然上手かった、って」

「へー」

「って。勝手に入っていいんですか?」


クノさんはパーカーに細身のジャージズボン。ひょいとフェンスを乗り越え、野球場に入っていった。

私は制服のまま。スカートを押さえながらなんとか乗り越えた。