体育祭が近づき、ソフトボールの練習が始まった。


「やだー! 全然取れないんだけど。美透ちゃんごめんー!」


男子と楽しそうにキャッチボールをする穂波さんたち。

そんな光景を横目に、変なところに飛んでいったボールを追いかける私。


元陸上部の私は、体力はあるものの球技の経験はない。

戦力にならないと思われたのか、気がつくとボール拾い係を押し付けられていた。


授業のコマ数が少なく、かつバイト休みの今日。

本当は早く帰ってベースを弾きたかったけれど、全員が集まれるのは今日だけらしく、仕方なく参加することにした。


ピッチャーはクラスで目立つ男子で、一球投げるごとにボール遅すぎ! 外しすぎ! などとヤジが飛んだ。


「それなら私も打てるかも!」

「わっ!」


ボール片手に戻ってきた私に、穂波さんはグローブを押し付けバッターボックスへ走っていく。

私の顔も見ず、ドン! とぶつけるように渡されたため、嫌な気持ちになった。


「ちょっとー、なんで急に速い球投げるのー?」


今の素振りでしょ? 違うし! バット飛ばすかと思って怖かったわー! なにそれ、ひどいっ! やべー超ウケるー!


思いっきり空振りをした穂波さんは、男子たちにいじられ、嬉しそうにしていた。


みんなの笑い声が空へと響き渡る。

手を叩いて笑っている女子の隣で、私もあははと笑っておいた。


グローブをつかむ手に力が入る。


『面白くないのに笑って
クソみたいに愛想振りまいて
自分が知らない人になっていく』


クノさんが歌う通りだ。


私、面白くもないのに笑っている。

心では全く笑っていない。むしろイラッとしているのに。


本当に自分がいなくなっていくみたい。


でも音楽に触れている時だけは、私は私でいられる。

早くベースを弾きたい。私は一体何をしているんだろう。


「えーやだー! あそこ! 先輩見てるよ!」


女子たちの大声により、はっと我に返った。


今練習しているのは、校舎横に面した小さなグラウンド。

ベランダに先輩らしき男子がたまっていて、こっちを見ていた。


よく見ると、その中にクノさんもいた。すぐにいなくなったけど。