それから怒涛の日々が始まった。


お金をリカバーするために、バイトのシフトを増やした。

バイト後はクノさんの家に行き、ベースの練習。

意外とクノさんは真面目に指の動かし方やピックの使い方を教えてくれた。


さすがに母が夜勤の日はバイトに入れないため、真緒が寝た後、スコアを見ながらエアで練習をする。

ベースをまともに触れるのは週の半分くらい。

だけど、途切れ途切れながらも少しずつ曲を弾けるようになり、毎日が楽しくなった。


あるバイト終わり、割引の総菜を買ってクノさんの家に行くと、申し訳なさそうな顔を向けられた。


「ごめん、今日この後彼女来るわ」

「あ。じゃあ外で練習します」

「悪い。下のガレージ開けとくから練習終わったらベース置いといて」


へー、クノさん彼女できたんだ。穂波さんたちがっかりするだろうな。

なんてことを想いながら、ベースをケースに入れて担ぎ、すぐ近くの川原へと移動。


「えーっと、次はここを押さえてっと」


街灯の下でスコアを見ながら、左指をおさえ、右手で弦を鳴らす。

初めは一つずつしか鳴らせなかった音が、次第に曲になっていく。


風がまわりの雑草を揺らす。音を遠くまで飛ばしてくれる。


この瞬間は、お金のことや、家族のこと、学校のこと、全て忘れて音に没頭できる。

早くクノさんと一緒に音を奏でたい。


「あいたたた……」


ベースはギターよりも弦がかなり太い。

弦を押さえていた指が痛みを増した頃、スマホのアラームが鳴った。


時間は22時。そろそろ帰らなきゃ。


再びベースを担ぎ、クノさんの家に戻った。

今頃上では彼女といちゃいちゃしてるんだろうな、と思ったが、ギターの音がかすかに聞こえて嬉しくなった。