雲の隙間から顔を出した夕日が、水面にオレンジのうろこを映し出している。


「はぁ、はぁ」


今日はいつもよりペダルが重い。

ハンドルを変な方向に切らないよう、緊張感を保ちながら川沿いの道を進んだ。


息は切れ切れなのに、自転車をこぐ足は止まらない。


ジョギングをしている人や、犬の散歩をしている人。

すれ違う人からの目線を浴びたり、浴びなかったり。

今日も世界は正常だ。


――いた!


彼は土手の草むらに寝転がって、ぼんやり夕焼け空を眺めていた。

道の端に自転車を止めて、小走りで駆け寄った。


本当は時間通りに行きたかったけれど、初めてのことすぎて時間がかかってしまった。


一歩、一歩、近づく。鼓動が暴れまわっている。

叫び出したくなるほど感情がぱんぱんだ。まあ、怖い気持ちがほとんどだけれど。


「人のこと呼び出しといておせーんだよ」


彼――クノさんは不機嫌そうな声をあげた。

寝転がったまま。私の姿を見ないまま。


「すみません!」


クノさんのすぐ横まで近づき、ぺこりと頭をさげた。

その綺麗な顔を覆ったのは、不自然な形の影。


顔をあげた。


視界に入ったのは、焦点がある部分に集中されたクノさんの目。


驚いているのか、呆れているのか。

その表情は固まっているため、読み取ることはできない。


「お前……それ」

「見ます?」


不安に押しつぶされそうになったものの、顔いっぱいの笑顔を作る。

彼は上半身を起こし、にらむように私を見つめている。