クノさんを追いかけた先。到着したのは、どこかの家の敷地の隅にある、2階建ての建物だった。

1階は閉じられたシャッター。ガレージになっているらしい。


外付けの階段を上る。鉄製のドアノブに掛けられた『いない』札をひっくり返し『いる』にしてから彼はドアを開けた。


ここ物置なんじゃないの?

きょろきょろしているうちに彼は電気をつけた。


蛍光灯に照らされたのは、畳まれた布団とちゃぶ台、パソコン。

壁にはCDがたくさん詰め込まれた棚、Tシャツやスポーティーな上着。

そして、立てかけられた2本のギター。


「えっと、ここに住んでるんですか?」


よく見ると、水道やトイレらしきドアもある。

隅には女ものの化粧品やマニキュアがぽつぽつと置かれていた。

ここ、女子連れ込み放題なんだろうな、きっと。


「まあね。あー腹減った」


聞くと、ここは彼の叔父さん家の離れらしい。

実家を出て、ここに住まわせてもらっているとのこと。


いろいろ事情がありそうだ。だけど、聞いてはいけないような気がして、黙っておいた。


「ま、そんな緊張しないで。座ってよ」


床に正座して背筋をのばしている状態の私。

もっとこっち、と手招きされ、彼に一歩近づき再び正座した。


「ミハラから聞いたけど、お前ライブ来てたんでしょ?」

「あ、はい」

「もしかして、俺のファン?」


びくり、と体が震えた。

彼はその瞬間を見逃さなかったらしい。


ふっと口角を上げ、体を近づけてきた。