『ちらつく面影吹き飛ばして 嫌な思い出蹴っ飛ばして
遠くに来てしまったな なんて笑ってタバコに火をつける

またいつか会えるから その時は笑顔にさせるから
大人になんてなれないけど 隣にいてくれたらいいな』



イヤホンからは彼の音色と歌声。

温かい感情となり、体に染みわたっていく。

タバコって……まだ未成年でしょうが、というツッコミを入れたくなるけれど。


今も彼は音楽をやり続けている。

有名私立大に入ったドラムの彼も、一緒らしい。

だけど、ベースはサポートメンバーのまま。


そこは、きっと私の居場所だ。


自動ドアが開く。耳をつんざくような電子音があふれ出し、閉じるドアとともにフェードアウトする。


「金ないって言ってるのに、何してるんですか?」


私はパチ屋から出てきた彼を捕まえ、怒りをぶつけた。

彼はぎくりとうろたえた後、うるせーよ、と言って笑う。


「やっぱり私がいないとダメだったんじゃないですか?」

「それはない」


彼は冷たくそう言い放ち、すたすたと汚い路地を進んだ。

ベースを背負った私も、トランクを引きながらその後ろをついていく。


彼はちらっと振り返り、ふっと優しく笑った。


「てか、おせーんだよ」

「一年後って言ったのはクノさんじゃないですか」


排気ガスにまみれた空気の中で、力いっぱい息を吸いこむ。

今日から私もここで生きていくんだ。


「あの曲、私のこと歌ってるんですか?」

「さーね」

「絶対売れると思います。早くスタジオで合わせましょう」


早く音を出したい。三人で音を合わせたい。

大きな会場でライブができるようになりたい。CDを売りたい。フェスに出たい。


まだまだやりたいことは山のようにある。


ここからは、本気で音楽で生きていくための道のりだ。





☆おわり☆