初恋エモ






まだライブの余韻が残っている。

ギターとドラム、ベースの爆音と、声量たっぷりのクノさんの歌。

お客さんの笑顔や、よかったよ、最高だったよ、という嬉しい声。


「あの、レジいいですか?」

「あ、すみません! いらっしゃいませ!」


やばいやばい。今はバイト中。仕事に集中しないと。

家に帰ったら思う存分、ベースを弾こう。


そう思いながら、バイトを終えた。


「ただいまー」


母と真緒が雑談している中、バイト先で買った食材を冷蔵庫に入れる。

二人は外食したらしく、買ってきた惣菜を片手に自分の部屋へ移動した。


ここは、一つの部屋を真緒と分割して使っている狭いスペースだ。

私はすぐ異変に気がついた。


「え? あれ? なんで?」


布団の横にあるはずのものがない。

私が二年前から大切な相棒としている、あれが。


一気に緊張感に襲われた。


別のとこに置いた? そんなわけない。朝は確かにここにあった。

まさか泥棒? いや、荒らされた形跡はないし、母と真緒もいつも通りだ。


小走りでリビングに戻り、母に聞いた。


「お母さん、ベースどこにあるか知らない?」


真緒とテレビを見ている母は、振り返り、こう答えた。


「売ったよ。だってバンド辞めたんでしょ?」


その言葉を聞いた瞬間、

自分の中にあるすべての嫌な感情が、一斉に心に込み上げた。


母は、再び彼と音楽をやるという未来を奪おうとしている。


どうして? 大人しく言うことを聞いているのに。

真緒の世話だってちゃんとやって、バイトもシフトを増やして、これ以上私に何を求めるの?


「……っ!」


気がつくと、私はたくさんの汚い言葉を発していた。

唖然としている母と真緒をよそに、私は家を飛び出した。


制服のまま上着なしで、自転車にまたがったが。


「なんなの? なんで?」


タイヤが上手く回らない。パンクしてしまったらしい。


「ふざけんな! 死ね!」


自転車を蹴り倒してから、私は夜道を走った。