「私、去年ライブ見たことあります。西町のライブハウスで」
「え、あれ来てたの? そっかー。やばい、あれ全然練習してなかったからなぁ」
クノさんの歌とギターに圧倒されてはいたものの。
同じくらいキャーキャー言われていた、イケメンのドラムのことも一応覚えてはいた。
リズムはところどころ危うかったものの、他のバンドのドラムよりは叩けていたから。
「今もドラム、やってるんですか?」
「ううん。たまーに遊びで叩いてるけど、俺、普段はバスケ部でそっちが忙しいし」
ミハラさんは髪の毛をいじってから、再び自転車をこぎ出した。
私もペダルを踏み込み、急に真顔になった彼の隣に並んだ。
あの時のバンドは文化祭に出るために即席で作ったものらしく、今はもう活動していないとのこと。
「クノさんもあの様子だと、もう音楽辞めた感じですか?」
「ちょくちょくギターは弾いてるみたいだけど。今は女遊びで色々忙しいんじゃない?」
「そうなんですか」
「あいつ、カラオケ行けばだいたいの女は落とせる、とか言ってるから」
「うわぁ……」
思わず、顔をしかめてしまう。
それ、自分の武器を間違った方向に使っていない?
確かに上手いし、かっこいいし。分からなくはないですけど……。
クノさんがオリジナル曲を作っていること、みんなは知らないのかもしれない。
「でもさ、間宮さんは落ちなかったね」
前を向いたまま、ミハラさんは続けた。
「え。なにがですか?」
「クノの歌に」
穂波さんたちが興奮している中、私だけ冷静だった。
その様子、ばっちりミハラさんに見られていたらしい。
「私は、バンドやってるクノさんがまた見たいです」
そう伝えると、なぜかミハラさんは嬉しそうな顔になった。
もしかして、ミハラさんも彼の後ろでドラムを叩きたいのかも。
そう思ったけれど。
「いや~あいつに合うメンバー、なかなかいないと思うよ~」
そう言って、ヘラッと笑うだけだった。
ミハラさん自身は、バンドをやる気がないらしい。
バスケ部だから仕方ないか。
私はクノさんのライブが見たい。カラオケでヒット曲をモノマネ風に歌う姿じゃなくて、彼自身の歌が聴きたい。
『失った感情取り戻して
止まった時間動かしたりして
それでどうなる そんなの知らない
ただ今日も曲が吐き出されていくだけ』
音源サイトには曲が増えているのに。
本当は音楽がやりたいくせに。