「クノさーん! 曲始まりますよー!」

「はー? 俺その歌嫌いなんだけど」


穂波さんたちがリクエストしたのは、有名アーティストによるヒット曲。

彼はめんどくさそうにマイクを持ち、立ち上がった。


どき、どき、と鼓動が早まる。


中学の時に衝撃を受けた。

よく分からない感情に突き動かされた。

もっと心に近づきたいと思った。


クノさんの歌が、聴ける。


「……っ」


みんなに軽く目くばせをしながら、クノさんは声を響かせた。


静かなAメロから、次第に動き出すBメロ、そしてサビへ。


やばい! まじ上手い! と穂波さんたちが興奮している。

ウェーブ先輩はうっとりした顔になり、ミハラさんは楽しそうにタンバリンを叩いている。


ささやくような低音から、かすれ気味の高音まで、彼の歌声は正確に動き回っていた。


もちろん上手い。声もかっこいい。


――だけど、何かが違う。


キャーキャーと女子たちの歓声が響く中、私は得体のしれない違和感に襲われていた。

それからもみんな盛り上がっていたけれど、カラオケが苦手な私は一曲も歌わないまま、解散となった。