初恋エモ



楽屋に戻り、ベースを片している時あることに気がついた。


「うわー、傷ついてる」


ライブの最後、転んだ勢いでベースのボディ下部分をステージにこすってしまった。

ほんの2~3mmくらいだけれど、ターコイズブルーの塗装が取れて木目が見えてしまっている。


クノさんいわく、「全然見えねーよ。しかも、少しくらい傷あった方が味が出ていいじゃん」とのこと。

今まで綺麗に使っていたのに。がーん。


フロアに戻ると、女子たちに囲まれているミハラさんの姿が見えた。


「超かっこよかったです!」「一緒に写真撮っていいですか?」


同じ高校の女子はもちろん、よく見に来てくれる女性ファンや初めて来たお客さんにも次々と声をかけられている。


一人一人に爽やかな笑顔で対応するミハラさん。

汗ばんだ髪のおかげで、色気まで増している。

これはミハラさん推しが増えそうだ。


物販席でその様子を眺めるクノさんは、

「ちっ、俺だって一応イケメン系のはずだけどなぁ」

とぼやいている。


「クノさんは近づきづらいオーラあるから……」


こっそりつぶやくと、「あ゛?」と凄まれた。そういうとこですって!


何はともあれ、ミハラさんとの初ライブ終了。


彼の成長により、透明ガールが新たな一歩を踏み出せた。

新しいお客さんにCDを買ってもらい、ミハラさんファンもごっそり増えたし、今日のライブは成功と言えるのでは。


あとはライブ審査に向けて、バンドとして最高の状態を作るのみだ。



しかし、ライブの充実感に浮かれたせいか、私はスマホをチェックするのを忘れていた。

スマホのロック画面を見た瞬間、血の気が引いた。


『真緒が風邪ひいちゃった。買い物お願いしていい?』

『今日バイトだよね? 何時まで?』

『バイト先連絡したら今日はシフト入ってないって。どういうこと?』

『どこにいるの? 連絡ください』


着信、着信、メッセージ。


「あ……やばい……」


母からすさまじい数の連絡が来ていたことに気づいたのは、帰りの電車に揺られている時だった。