クノさんがバイトに行ったため、その日は一人で彼の家でベースを触ることに。
葉山さんが残してくれたドラム音源を聞き、新曲のベースを練る。
これもいい曲だ。早くバンドで作り上げて披露したい。
そう思いながら、ひたすらベースを弾いていると。
扉が開かれる音がして、慌てて振り返った。
「あれ。クノは?」
現れたのは、制服姿のミハラさんだった。
驚いて「バ、バババイトです!」と超どもりで返事をしてしまう。
「そっか。クノ、いないんだ……」
私のテンパりをスルーし、彼は部屋の中へ入ってきた。
いつもの爽やかな笑顔は封印され、なぜか思い詰めた表情をしながら。
狭い空間に、ミハラさんと二人きり。
彼が普段とは違う雰囲気であることも加え、急に鼓動が早くなった。
「美透ちゃん、少しだけいい?」
「あ、はい……」
ベースを立てかけ、床に正座する。
正面に座ったミハラさんはじっと私の顔を見つめた。
「…………」
彼はなかなか話し出さない。
軽く首を傾げ、まぶたを伏せたり、私を見たり見なかったりを繰りかえす。
伝えたいことはあるのに、真剣に言葉を選んでいるよう。
え、もしかして、これって……まさか……。
『ごめん、なんか可愛いかったから』
『俺、美透ちゃんの一生懸命なとこ、好きだわ』
今までミハラさんに言われたありがたい言葉を思い出す。
『さっさとミハラとキスでも何でもして色気をアップさせろ!』
なんと、このタイミングでクノさんに言い捨てられた言葉も思い出してしまう。
ちょっと待って。
翠さんもクノさんも私とミハラさんをくっつけようとしてたよね。
ミハラさんって、本当に私のことを……?

