初恋エモ






彼らのツアーファイナルは、いつものライブハウスでのワンマンだった。

スクリーミンズ現体制でのラストライブ。チケットはもちろんソールドアウト。


私たちはゲストで入れてもらった。


「脱退ってかクビじゃね?」

「最近スクリーミンズ変わりすぎ」

「こんな田舎じゃやってられないって話じゃん?」


メンバーの脱退で泣いている人、バンドが遠くに行ったことを嘆く人。

ライブは異様な雰囲気の中で行われた。


ただ、長いツアーを経て、バンド全体を包んでいた違和感はなくなっていた。

葉山さんも吹っ切れたようで、透明ガールで叩く姿と同じ勢いでドラムを奏でていた。


ライブの終盤、汗だくのボーカルさんがお客さんへ発信した。


「スクリーミンズはこの二か月間、全国を回ってきました。でも気づいたのは地元が一番だってことでした。だからこそ、俺たちはこの町を出て勝負をすることにしました」


満員のお客さんがいっせいに静まりかえる。

誰もが息を飲んで彼の言葉を受け止めていた。


「メンバーでも話し合いを重ねました。殴り合いや罵り合いもしました。それでもスクリーミンズは前に進まなきゃいけない。変わっていかなきゃいけない。
何しろ俺は、みんなが想像するところよりも高い場所へ行きたい」


ボーカルはところどころ息を詰まらせ、話を続ける。

どこからかすすり泣く声も聞こえてくる。


私も、クノさんも、真剣にステージだけを見つめていた。


そして、ボーカルは大きく息を吸いこみ、こう吐き出した。


「だから、東京で絶対成功して、地元上げますんで……これからも応援しろよお前らぁぁあ!」


葉山さん、そして、脱退が決まったベースとギターがいっせいに爆音を鳴らす。

メンバーが音でぶちまけた感情にライブハウスが飲まれ、そのまま最後の曲へ。


お客さんの拳が波のように上がり、呼応するようにスクリーミンズも激しいライブを繰り広げた。


噂で聞いたけれど、地元の大学生であるギターは将来を考えて大学に残ることにし、ベースは結婚するため就職することにしたらしい。


そして、葉山さんは……


『俺にはドラムしかないから。今さら就職とか考えられないし』


初めて会った頃から、彼は音楽で生きていく覚悟が決まっていた。

だからこそ、ボーカルとともにスクリーミンズを続ける道を選んだのだろう。


最後は、満員のお客さんに祝福され、スクリーミンズ現体制のライブが終了した。