葉山さんはタバコにもお酒にも手を付けず、話をつづけた。
「透明ガールの活動は楽しいし、大切にしたい。でも、スケジュールの関係でできない状況が続いて、申し訳ないと思ってる」
昔からのファンには賛否両論あるものの、スクリーミンズは新しいファンを全国に増やしている。
地方のイベントやフェスにも呼ばれ、ライブが終わればSNSに感想ツイートがあふれる。
その活躍ぶりを見て、私もうすうす覚悟はしていた。
いつか両立できなくなる日が来るかもしれない、と。
さっきまでの楽しい雰囲気は一転、部屋の中が重苦しい空気に包まれた。
できる範囲でやってほしいけれど、透明ガールも今はコンテスト参戦中。
一つ一つのライブが勝負になる。葉山さんがいないと厳しい。
沈黙を破ったのはクノさんだった。
ライターでするめをあぶりながら、かすれた声を発した。
「俺は葉山さんのドラム好きっすよ、普通に」
「…………」
「あとは葉山さんがどうしたいか、じゃないっすか?」
そう言って、葉山さんにライターを渡した。
全国デビューを果たしたスクリーミンズは、路線変更やメンバーの不仲などの問題を抱えていて。
コンテストに参戦中の透明ガールは、まだ駆け出しバンドだけど、楽しく叩ける場所。
葉山さんは迷っているのではないか。
葉山さんはクノさんを見て軽くうなずき、タバコに火をつけた。