何も言えないでいるうちに、通りすがりの生徒たちの視線を感じた。

その中から知っている声が聞こえてきた。


「今聞いた? 間宮さん、クノさんと付き合ってるって……」

「うっそ、マジ? 間宮さんが?」

「クノさんあの先輩と別れたって噂は聞いたことあるけど」


目に入ったのは、穂波さんたちの姿。今の話を聞かれていたらしい。

ざわつくギャラリーに構わず、ウェーブ女子はあきれた様子で私をにらみつけた。


早くこの場をなんとかしたい。

なのに、どうしたらいいか分からない。


「てかさー、あんたさっきから黙ったままじゃん」

「すみません」

「で? どうなの? さっさと言えよ!」


勢いよく肩を押される。


「キャッ!」


左足を滑らせてしまい、後ろに転んでしまった。


「うわぁ、大丈夫かぁ?」

「いやいや全然っしょ、わざと転んだんじゃない?」


今の状態を見ているはずなのに、穂波さんたちは誰も助けてくれない。

ウェーブ先輩が怖いのか、遠巻きに見ているだけ。


本当のことを言わなきゃいけないんだろうけど、先輩が怖くて、今の状況が辛くて、言葉が出てこない。

こんな時に何もできない自分が苦しい。


つん、と目の奥が痛くなった。


その時――


「ちょっと待ったー! いじめ良くない!」


慌ただしい足音と、男子の大声がこっちに向かってきた。

みんなの視線も一気に移動する。


「キャーミハラさんだー!」「すげーイケメン!」


現れたのは、背の高い、さらっとした髪型のかっこいい男子。

穂波さんたちは興奮し、スマホを構えだした。