「ねーちゃん、飯まだー?」

「待ってて。あと少しだから。あ、そこのお弁当食べていいよ」

「まじ? やったー!」


母は今日夜勤のため、家には私と弟の真緒だけ。


真緒は小学1年生。年は10歳近くも離れている。

母がいない日は私が面倒をみなければならない。


それにしても、今日は本当に疲れた。


穂波さんはじめクラスの子となじめなかった。

男女の別れ話に巻き込まれ、反射的に協力してしまった。

クノさんと対面できたのに、何も伝えられなかった。


ちなみに昼休みの女子たちの会話の中で、かっこいい先輩として、もちろんクノさんの名前も挙がっていた。彼は有名らしい。

あとミハラさんという名前も。確かクノさんと一緒にバンドやってた人だったような。


「ねーちゃんスマホ貸してー。ゲームしたい」

「今日はダメ。通信料ギリギリだから」

「えー貸してよー貸してよー」

「そろそろ寝る時間だよ。歯磨きしてきなさい」

「ちぇー」


自分の時間が持てるのは真緒が寝た後。

それまでは宿題をやらせたり、遊び相手になったり、洗い物や洗濯をしたり。休む暇はない。


早くアルバイトをして家計を助けなきゃ。

クラスの友達とどうやったら仲良くなれるのだろう。

クノさんはやっぱり性格最悪な人で、音楽もやっていなさそう。

好きなバンドの動画を見たいのに、スマホは通信制限ぎりぎり。


それよりも。


「はぁ……」


布団にもぐりこみ、クノさんの曲を再生する。


私はクノさんに憧れて、この高校へ来た。

偶然、話す機会もあった。また会う機会があるかもしれない。


また彼のライブが見れればいいの?

ファンですって言って、握手してもらえばいいの?


いや、どれも違う。きっと満たされない。


じゃあ私はどうしたらいいの?


いくら考えても、答えは出なかった。