12月になった。寒いと身体も硬くなり、腰痛も悪化するようで、

「痛いときはいつでも来てくださっていいですからね」

 という草瀬さんの言葉通り、週に二回以上行く日もあった。

「早いですね。もう、12月。にこにこ整骨院に通うようになって腰痛、かなり改善されました」
「よかったです。そうですね、腰痛を防ぐためにもできるときにはストレッチ、そして腹筋背筋を出来たらさらにいいですね」
「筋トレですか? きつそうですね」
「やれば結構楽しいですよ? 筋肉は筋トレすればちゃんとついてくれるのが分かるので」
「結果が出るなら確かにやる気にはなりますよね」
「その代わりやらないとまた落ちますけれどね。後はこの時期は寒くて血流も悪くなるので、温めることを忘れないでくださいね」
「はーい」

 施術が終わり、料金を払おうとすると、いつもの看護師がいなかったので、草瀬さんが対応してくれた。

「はい、診察券」

 渡されたときに、私はわざと草瀬さんの指に触れるように診察券をとった。私ばかりがドキドキしている。草瀬さんの指に触れる、それだけでもこんなに。
 その時だった。

「あ、すみません!」

 ぱっと手を離した草瀬さんの顔がみるみる赤くなった。思いもよらない反応に私はしばし呆然として診察券を落としてしまった。

「す、すみません」

 お互い診察券を拾おうとして、そして、目が合った。明らかに動揺している草瀬さんの目。私は草瀬さんが先に拾い上げた診察券を、

「ありがとうございます。すみません」

 と受け取って、慌てて整骨院を出た。
 顔が熱い。きっと私も真っ赤になっている。でも、あんな反応をするなんて。施術するときは私の身体に触れても平気そうなのに。その日、私は先生でない草瀬さんの顔を見て、嬉しくて眠れなかった。もしかしたら草瀬さんはまだあの約束を覚えてくれているかもしれない。そうであってほしい。