その日から週に二回ほどにこにこ整骨院に通う日が続いた。草瀬さんはいつも朗らかで世間話をしながらの施術はなんだか心までほぐされる感じだった。草瀬さんの声は本当に心地よくて、時々うとうとしそうになる。
 ただ、やはりお尻を揉まれるときは緊張した。草瀬さんは施術としてしているだけなのに、緊張している自分が恥ずかしかった。
 
 そんなある日、草瀬さんが休みの時があり、違う先生に揉まれた時があった。
 その時、感じたのは、なんとなく気持ちが悪いということだった。いや、施術が悪いわけではない。身体を触られるのに少し抵抗を感じたのだ。私は思った。草瀬さんだから初めて整骨院に来た時も身体を触られても平気だったのかなと。
 私にとって草瀬さんはどんな存在なのだろう。考える日が増えていった。そして、整骨院に通えない日はなんだか心が落ち着かなかった。
 腰の調子は段々よくなってきて、もう週一ぐらいでもいいのだろうけれど、私は相変わらず週に二回のペースで通っていた。もっと草瀬さんとなんでもない話をしていたい。そして、身体に触れられたい。そんなことを思うようになっている自分に驚く。自分の気持ちが草瀬さんに向かっているのが分かると、草瀬さんの気持ちがどうなのかが気になり始めた。草瀬さんは整骨院では当たり前だが先生の顔だ。いつも優しく、明るく接してくれる。桜の木の下で飲んだ時のような悲しげな表情は見せない。
 もう、8月になる。草瀬さんはまだあの約束を覚えてくれているだろうか。