仁の目が、ゆっくりと開いた。
ボーっと遠くに視線をやっている。
手を握りしめると、微かに反応を見せた。
仁は、確かに意識が戻って……。
「わ、私は医者を呼んでこよう。待っていなさい!」
武田部長が廊下に出て、私と仁の二人きりになる。
もう感激して涙が止まらなかった。
ただ泣いて、
仁が無事だったことに喜びをかみしめていた。
「ああ、仁。仁。良かった!
私もう、このまま目を覚まさないんじゃないかって思って……
怖かった!」
「…………」
仁がゆっくりと体を起こす。
もう動いている仁が愛おしくて、思わず抱きしめてしまった。
ぎゅっと、仁の熱を感じる。
仁の息遣いが、肩越しに伝わる。
ああ、幸せ。
生きているって幸せなんだわ。
そう思ったのに……。
急に仁の体に力が入ったかと思うと、
乱暴に体を引きはがされた。
痛かったかな?と思いながら慌てて体を起こす。
仁の顔を見て、私は不安に駆られた。
「あっ、ご、ごめん。痛かった?
久しぶりに会えたから、つい嬉しくなっちゃ……」
「誰?あんた……」
音や匂い、色覚など、
全ての感覚がマヒしたようだった。
一瞬世界がぐらつく。
今仁が言った言葉だけが、
いやにはっきりと響いていた。
「えっ……どうしたの?仁」
仁は頭を押さえて、顔をしかめている。
そして私と目が合うと、迷惑そうな表情をして私をじとっと睨みつけた。
「一ノ瀬くん、先生を連れてきたぞ」
ガラッと豪快に扉が開いて、感覚が全て戻って来た。
見ると武田部長とドクター、
看護師が揃って病室に入って来た。
ドクターが何かを仁に話しかける。
仁はその質問に首を振った。
武田部長がさっと顔を青ざめさせた。
私には、何が起きているのか分からず、ただ呆けていた。
「ぶ、部長……ドクターは今、何を聞いたんですか?」
武田部長の顔は硬く、強張っている。
その間にドクターがまた何かを話す。
やっぱり仁は首を横に振る。
嫌な予感がした。
「部長……」
ドクターはいくつか仁と話した後、
武田部長に向かって何かを話した。
部長はそれに答えていく。
そして部長は、私に向き直って言った。
「落ち着いて聞いてくれ。
神崎くんはどうやら、記憶喪失になってしまったらしい」
「えっ……?」
記憶、喪失―?


