七海が手を振る。
何も聞かれないでよかったと思いながらそそくさとブースを出た。
エレベーターホールで上のボタンを押して、
小さくなりながらエレベーターを待つ。
誰にも会いませんようにと祈って待つと、
すぐにエレベーターがやって来た。
開くとそこには何人か社員が乗っていて、
私が乗り込むのを待っている。
でも、怪しまれたらいけないと思った私は
なかなか乗り込めなかった。
「あの、まだですか?」
中の人が訝しげに私を睨みつける。
どうしよう。乗らないと不自然だけど、乗りたくない。
「あっ、あの、す、すいません。やっぱり、いいです」
舌打ちが飛び出そうなほどの嫌悪の顔を見せて、
中の人はエレベーターを閉めた。
私は非常階段へと入り、一気に駆け上った。
息が上がるけれど、そんなことどうでもいい。
早く葛城さんとの逢瀬を終わらせて楽にならないと。
その思いだけで突っ走り、8階までたどり着いた。
廊下を歩いて、休憩室の前で立ち止まる。
大きく深呼吸をして、コンコン、とノックした。
何も返事がないので、開けてみる。
中は静かで、少し埃の匂いがした。
「か、葛城……さん?」
呼んでみると、カタンと奥から物音がした。
奥に進んでいく先に、
葛城さんが優雅に珈琲を飲んでいる姿があった。
「ああ、奏音。やっぱり来ると思ってたよ」
「な、なんですか。
早くあの写真、消してください」
「まだ、ダメだ」
葛城さんはにいっと笑って口元を拭った。
持っていた紙コップを机に置いて、私に近付いてくる。
それに合わせて後ずさった。
流し台に背中がぶつかって後方を絶たれる。
葛城さんは私の手を掴んで、さらに笑んだ。


