部署内に戻り、自分のデスクに着くと、
七海が隣のデスクでハンドクリームを塗っていた。
それは可愛らしいパッケージで、バラの香りがとてもいい。
新婚旅行でフランスに行った時に買ったものらしかった。
勿論、七海から私はお土産をもらった。
それはなんの変哲もない、多分日本のどこでも買えそうな
ペンケースだったけれど。
貰ったものを身に着けないのも悪いから、
普段使いにしている。
私もお洒落に、ハンドクリームみたいなものが欲しかった。
どうしてこんなものだったの?
それをここ2週間ほど、ずっと思っている。
七海は私を、下に見ている節がある。
決して悪気はないけれど、自分よりも下に見ているから、
こんなお土産しか選ばない。
私と彼女に、差なんてないのに。
七海は気が強いから、リーダーみたいにいつも前を歩くタイプだ。
どちらかというと控えめな私は、
いつも七海の背中を追うだけ。
でもね、七海。
私はそれでもいいの。
だって、あなたの旦那様は私のものだから。
七海よりも私の方が好きなのよ。
だからほら、見て。
あなたの旦那様は私にこんなお土産をくれた。
私はカバンから小さなハート型の香水を取り出して、
これ見よがしに吹き付けた。
「あら、いい香りね」
「もらいものなの。香りがいいから気に入っちゃった」
いいでしょう?葛城さんは私にこの高価な香水をくれたわ。
それは少なからず私を特別に思ってくれているから。
葛城さんの心は私にあるの。
だから、あなたにいくら見下されようがどうってことない。
そんな些細な優越感に浸りながら、午後の仕事を始めた。