「あの、ここです」
そう言った時、庭の手入れをしていたお母さんが気づいて、目を見張った。
「深月!?」
お母さんは持っていたジョウロを放り出して、青ざめた顔で駆け寄ってくる。
「どうしたの!?何かあったの!?」
取り乱すお母さんに、想太が落ち着いた声で状況を説明した。
「熱が……そうですか……わざわざ送っていただいて、どうもありがとうございます」
お母さんがほっとしたように、深々と頭を下げた。
「じゃあ、僕はこれで。お大事に」
去っていく想太を見送って、お母さんは心配そうに私に顔を向ける。
「電話してくれたら、迎えに行ったのに」
「電話、できなくて……」
「そう、じゃあ、あの方に送ってもらえてよかったわ。今度何かお礼しないと」
オロオロと言うお母さんに、なんだか申し訳ない気持ちになる。
お母さんは、自分の心配ばかりしていると思っていた。でも、いまは違う。あのこととは、関係ない。
「ごめんね……お母さん」
「え?」
「心配ばかりかけて、ごめんね」
素直になれなくて、ごめんね。
弱っているからか、いつもは言えない本音が洩れた。
お母さんが涙を浮かべた目で私を見る。
「何言ってるのよ。娘を心配するのは、当たり前でしょう」
お母さんが目を拭いながら、少し笑う。
「ほら、病院行くわよ。乗って乗って」
車のドアを開けて、私を押し込んだ。
『いまは難しくても、いつか向き合える日がくるよ』
前に、想太が言っていた。
そんな日が来るなんて思えなかった。
でも、いまは違う。
いきなり元に戻ることは難しいけれど、少しずつでいいから、変えていけたらいい。
そんな風に思えたんだ。

