読みはじめるといつもならすぐにその物語の世界に入り込んでしまうけれど、今日は集中できなかった。
本を閉じて携帯の時計を見ると、ちょうどバスが来る時間を過ぎた頃だった。
……おかしい。
その時点で、違和感を感じた。いつも決まった時間より前にくる想太が、約束の時間になっても来ない。それに、バスも来ない。
小さな違和感は、5分、10分と時間が過ぎるほど、嫌な予感に変わっていった。
そして、15分を過ぎた頃。
バスがやってきて、目の前に停まった。
ドアが開いて、関さんが顔を出す。
「ーー深月ちゃん」
と関さんは私の名前をはっきり口にした。
いかにも、人のいいおじさんといった感じの関さん。彼の青白く強張った顔を見て、嫌な予感が、確信に変わった。

ーーなにか、悪いことがあったんだ。

あのね、と関さんは気を落ち着かせるように短く息を吐いて、信じられないことを告げた。

「想太が、事故に遭った」

え、と乾いた声が出た。

ーーいま、なんて?

「運転中、居眠り運転の車が猛スピードでぶつかってきたって……」

それで、想太さんは。
声にならない言葉を、目で訴えた。

「病院に運ばれて、意識不明の重体だって……俺もさっき聞いたばかりで、まだよくわかってないんだけど」
「そんな……」
そんなの、あり得ない。
だって彼は、ここに来るはずだったんだ。
私に、待っててって言ったんだ。
言葉のすべてを、頭が拒否していた。
いますぐ嘘だと、間違いだったと言ってほしかった。
でも、想太が心から信頼する関さんが、そんな嘘を言うはずない。
でも……でも……

「深月ちゃん、お願いがある」
と関さんは言った。
「いますぐ駆けつけたいところだけど、俺は仕事がある。もうすでに遅れてしまってるのにこれ以上お客さんを待たせるわけにはいかない」

だから、と彼は私の目をまっすぐに見つめて言った。

「君に、行ってほしいんだ」