「…すみません。…帰ります…」


 ファイル保存をして、悠はパソコンを閉じて帰り支度をした。


「鍵閉めますので、所長は先に帰って下さい」

「いや、お前が帰るまでちゃんと見ている」

「ご心配されなくても、帰りますので」


 愛想笑いを浮かべて立ち上がる悠。


 だが…


 急にフラッと倒れそうになった。


「あ…」

 倒れそうになった悠を一樹が支えた。


「大丈夫か? お前」

「す、すみません。…」


 そう答える悠の声がちょっと弱弱しかった。

 その声に一樹は胸が痛んだ。


 
 ふと見ると、悠は胸を押さえていた。
 
 押さえている場所に何か黒い影を見た一樹。


 支えている悠はとても華奢で…。

 なんだか随分と痩せたように見えた。


「送って行く」

「いえ、大丈夫です」

「大丈夫なわけねぇだろ! そんな顔色して。お前、ちゃんとメシ食っているのか? 」

「ご心配なく…」

「バカかお前は…」


 ギュッと、一樹は悠を抱きしめた。


 突然抱きしめられ、悠は驚いて目を見開いた。


「…お前。いつまで一人で頑張るつもりなんだ? 」


 一樹の声が上ずっている…。


「一人で大丈夫な人間なんて、どこにもいねぇよ。…俺、ずっと一人で平気って思ってたけど。お前に会ってから、そうじゃないって気づかされている。…お前が俺の事務所に来てくれてから、仕事だって増えているんだ。…お前のおかげかな? って、思ったけど。そうじゃないって、最近気づいた」


 そっと一樹は悠を見つめた。

 とても優しい眼差しで見つめられ、悠はドキッとした。