梅雨の季節が過ぎは暑い夏になった。

 あれから一樹は何度か悠を誘ってみたが、いつも「すみません、用があるので」と断られてばかりだった。


 昼の時間に事務所にいるときは、悠をランチに誘ってみるが「今日は買ってきました」とか、「お弁当持ってきたんです」とか「お昼休みに用があるので」と断られる。


 もしかして、俺を避けているのか?

 と、一樹はモヤモヤした気持ちが込みあがっていた。




 夏の暑さで体調を崩す社員も多く、病欠で休んでいる社員の分の仕事を悠はこなしていた。

 だが最近、悠の顔が優れないと周りの事務員が言っているのを一樹は耳にした。



 
 今日も定時を過ぎて、みんなが帰っても、残務をこなしている悠がいた。

 前よりちょっと痩せたような悠。



 他の社員も帰ってしまい、悠は残りの残務をかたずけていた。



 カチャッとドアが開いて、一樹がやって来た。


「なんだ? まだ残っていたのか? 」


 時刻は19時30分を回っていた。


「すみません、これが終われば帰りますので。所長はもう、お帰りですか? 」

「ああ、まだ事務所の電気がついていたから寄ったんだ」


 
 悠の傍に歩み寄ってきて、一樹はそっと悠の顔を覗き込んだ。


 ちょっと青白い顔をしている悠。


「もう、その辺でいいから。帰れ」

「はい、もう少しなので…」

「いいから! 途中で構わん」

 
 グイッと、悠の手を掴んで仕事の手を止めさせた一樹は、とても真剣な目をしていた。