しばらくして。

 一樹と悠は抱き合ったまま眠っていた。

 お互いの肌のぬくもりが心地よくて、安心できる…。

 隣に誰かがいることが、こんなにも安心できるとは。


 うとうとと、一樹が目を覚ました。

 すっぽりと腕の中に、悠がしがみつくように抱き着いている姿を見ると愛しくてたまらない…。

「悠里…」


 優しく悠の髪に触れた。


「…ん…」


 うるうると悠も目を覚ました。
 
 目が覚めた悠と目と目が合うと、一樹は優しく微笑んでくれた。

 なんとなく悠は恥ずかしくて、そっと視線を落とした。

「悠里…。俺に幸せをくれて、有難う…」

「そんな…私こそ…」

「10年前に、水穂子を亡くして。ずっと、人を好きになる事が怖かった。愛しても失ってしまう事が怖くて…それで「女は面倒だ」とか言って逃げていたんだ。…」


 ギュッと抱きしめて来る一樹の声が上ずっていた。

 悠はそっと寄り添った。


「…泣いてもいいですよ…」

 悠の優しい声が、一樹の胸をキュンとさせた。

「ずっと泣かないで、我慢していたのでしょう? ここには、私しかいませんから。泣いていいですよ」

「…お前…よすぎ…」


 抱きしめている一樹の頬に波が伝った。

 そしてその涙が悠の肩に落ちてきた…。

 
 この人の苦しかったんだ。
 私も苦しかった…彼女を助けてあげられなくて…。
 
 でも今は…苦しくなくなった…。
 彼女の代わりかもしれないけど、好きでいていいって思えるから…。


 泣いている一樹に悠はそっと寄り添った。


 お互いの鼓動を感じながら。

 そっと寄り添って、悠は一樹の気持ちを受け止めていた。