翌日のお昼過ぎ。

 一樹は時間を作って、樹利亜のお見舞いに来た。

 ICUから一般病棟へ移された樹利亜。

 とりあえず容態は安定したようだ。

 付き添っていた忍は仕事に戻り、今は誰もいなかった。


 病室に一樹がくると、樹利亜は満面の笑みを浮かべた。

 
「一樹、わざわざ来てくれたの? 忙しいのに、ごめんね」


 ベットを起こして、本を読んでいた樹利亜が一樹を見るととても嬉しそうに笑った。

 高熱を出して、肺炎になっているのにとても顔色の良い樹利亜に、一樹はちょっと驚いた。


「もういいの? 肺炎起こしたって聞いたけど」

 一樹が尋ねると、樹利亜はそっと頷いた。

「昨日までね、ほんとに苦しくて死にそうだったの。でも、今朝目が覚めたら熱も下がっていて。朝検査したら、肺炎はすっかり治っているって言われたの。びっくりしたわ」

「え? 本当に? 」

「ええ。きっと、昨日の夜中に来てくれた天使さんのおかげね」

「天使? 」

「うん。夢かもしれないけど、とっても綺麗な天使さんが来てくれて。優しく額に触れてくれたの。暖かい光で包んでくれて、優しい目をしているのに。着ている服は、真っ黒なワンピースだたの。瞳がどこか悲しげで。目を開けたらいなくなってて。夢だったかもって思ったんだけど。こんなに元気になっているから、夢じゃないって信じられたの」


 一樹はふと、悠の事を思いだした。

 悠は…悠里…そして悠里はあの公園で出会った女性。

 天使のように綺麗な女性。

 でも「私は悪魔」と言っていた。


 でも悠は会社を休んでいる。

 樹利亜の事は知らないはず。

 
 悠は…どうしているのだろうか?



「一樹? どうしたの? 」

「え? 」


 樹利亜はじっと一樹を見つめた。