「一樹、わざわざ来てくれて有難う」

 
 忍が声をかけると、一樹はちょっとムッとした表情を浮かべた。


「一樹。お母さん、いつもお前の事を心配しているぞ」

「…ふーん…」

「たまには顔を見せてあげて。お母さん、お前を一番心配しているんだからな」

「…分かったよ…」

 ちょっと可愛くない返事をする一樹。

 夏樹はそんな一樹を心配そうに見ている。


「とりあえず、今は面会謝絶になっている。今夜は、父さんがついているから。お前達はかえっていいぞ」

「判った、じゃあ俺は帰る」


 一樹はさっさと帰ってしまった。


「僕達も帰るよ。また明日、様子を見に来るね」


 夏樹は幸喜ん手を引いて帰って行った。





 帰り道。

 一樹はちょっと複雑そうな顔をしていた。


「兄貴! 」


 後から来た夏樹が駆け寄ってきた。


「兄貴、なんだか優しくなったね」

「あ? んな事ねぇよ」


「そう? ねぇ、この前見かけたんだけど。ショッピングモールに、可愛い女の子と一緒にいたよね? 」


 ゲッ…
 見られていたのか?
 しかも、見られたくない奴にみられたなんて…。


 一樹は黙っていた。

「兄貴と一緒にいた女の子と、今日会った、幸喜が言っている天使さん。よく似ていたよ。マスクしてたけど、なんとなく分かったよ」

「…だったら何だよ、お前に関係ないだろう? 」


「兄貴。もう、前を見ていいと思うよ。兄貴がずっと引きずっているの、知っているから」

「余計なお世話だ。俺の事は、干渉しなくていいから、お前は自分の幸せを考えればいい」

「僕の幸せは、兄貴も幸せになってくれる事だよ。昔から、兄貴はずっと僕に気を使っているから」

「そんな事はない。俺は…1人のほうが気楽なんだ。余計な干渉はしないでくれ」


 
 夏樹を突き放して、一樹は先に歩いて行ってしまった。