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「懐かしいわね、花火大会」
私の浴衣の着付けをしながら、ママがそう呟く。
クリーム地に散りばめられた紺色の朝顔が涼しげで、夏にぴったりのこの浴衣は、
中学の頃に、ママの姉である凛子さんからいただいたもの。
ずっと着れないでいたから今日やっと着られて嬉しい。
私に似合うかどうかは置いておいて。
「ママ、花火大会のこと覚えてるの?」
「え?なに言ってるの。当たり前じゃない」
「そっか……」
パパも一緒の花火大会だったから、ママの方から話題にされるとは思わなかった。
今まで、パパがいた時の思い出話はなんとなくしない方がいい雰囲気だったから。
「あの人からなんか聞いたの?」
「えっ?」
「いや海風あの日帰って来てたから様子が違うから」
「へ、そうかな……」
ママはなんでもお見通しってことか。
隠しごと、全然できないね。
パパや奈央さんの話をママにするのもどうかと思ってしないでいたけど、
今日は話してもいいのかな。
私は、意を決して、パパの話と奈央さんの話をママにした。
ママは私の着付けをしたままそれを黙って聞いてるだけだったけど、
その表情が変わらず穏やかだったから安心した。



