「あ、ちょ、遥琉!」
ピチャッ
そう呼んだときにはもう遅く。
私の足は、あっという間に、海水に浸かっていた。
「拭くもの持ってないよ……」
ハンカチは持っているけれど、足なんて拭きたくないし。
「細かいことはいいから」
「わっ!」
水の中で立ち尽くしていた私の手を遥琉はなんの迷いもなくまた掴まえてから、歩き出した。
遥琉が走るたびパシャパシャと水しぶきが飛んでくる。
わざと私にかかるようにしてるみたいな歩き方。
「ねー!遥琉!跳ねてるから!ストップ!!」
私が大きな声でそう叫んで、遥琉はやっと雑に歩くのをやめた。
「ビチョビチョなんだけど!!サイテー!!」
「俺も濡れてる。おそろコーデじゃん。カップルみたい」
「……っ、」
ブチッ
今明確に。
私の堪忍袋の尾が切れた音がした。
こっちの気も知らないで。
遥琉に触れられていちいちドギマギして、いろんなこと考えて。
でも結局、こいつにとってはなんの意味も持たないただの暇つぶしなわけで。
「この、アホ遥琉!!」
バシャッ!
私は、掴まえられていた手を勢いよく振り解いて、緩みっぱなしのやつの顔に、海水を盛大にぶちまけた。



